占星術に関わる全ての者にとって、最も親しみがありながら、最も謎めき不可解な存在が「月」であると思います。また、占星術師の多くが月という存在に引き込まれるように、占星術を知らない全ての方にとっても、月は地球人にとって普遍の存在としての魅力を放ち続け、多くの人々を惹きつけてやまない存在であることでしょう。
今回はこの「月」という存在の意味や感じ方などについて、現時点での私の個人的な考察を記したいと思います。
「月」の基本象意
占星術を知る者の間では、月は「素の自分」「本来の自分」であると捉えられることが多いです。
象意と年齢域の関連性
占星術には「年齢域」という考え方があり、月は最も幼い年齢(0〜6・7歳)を示すとされます。簡単に述べると、この「幼い」無防備な状態の自分の様が「素である」と考えられているわけです。

「月」は本当に「素の自分」を示しているのか
最近は占星術もカルチャーとしての認知度が高まっていて、より詳しく知りたいと思う人が増えているようです。それとともに「月」のサインを意識される方が増え、また占星術師の中にも月のサインを最重要視している方が増えてきています。この傾向は相乗関係にあり、互いに呼応しあっているように見えます。
このような背景の中で、「月=素の自分」という解釈のされ方がだいぶん一般的になってきました。さらに、一部の方においては「月のサインこそ本当のあなた」という主張をされています。
しかし、そんな風潮の中で、私はこの解釈には非常に懐疑的な立場です。
なぜ懐疑的か
懐疑的であることには、いくつかの理由があります。
- 自分自身の内部感覚にフィットしていない
- 月の性質の現れ方にかなりの個人差がある
- 月の損傷によるダメージは大きくなりやすく、元の性質を全く発揮できていないケースがある(機能不全)
- 月の性質を感知しづらい条件がおそらく存在する
ここからは、それぞれの見解について詳細を述べてみます。
1. 自分自身の内部感覚にフィットしていない
これは私自身の話なのですが、私の月のサインは♌️獅子座です。しかし、自分でもそうですし、占星術を知る人から見ても、獅子座の月が示すとされる「賑やかさ」や「祭・パーティー好き」「派手さ」などはそれほど感じられないのではないかと思います。たとえばこのBlogでもそうですし、Twitter上などでの発言でもそうだと思いますが、私の印象を温度で表すなら「熱い」よりは確実に「冷たい」はずです。
実際のところ私自身は、「賑やか」よりは断然「静か」な方が好きですし、圧倒的に落ち着きます。「賑やかな環境」というのはストレスが溜まり過ぎてだいたい無理です…。
2. 月の性質の現れ方にかなりの個人差がある
ネイタルチャートにおいて人格の柱となるのはライツ(Lights)と呼ばれる2大天体で、これは「太陽と月」を指しています。
私は人格の解釈を行うとき、この2天体を軸に据えた上でそれぞれを解析していきますが、ほとんどのケースにおいて、太陽の性質が強い人と、月の性質が強い人に分かれます。
人格の統合を進めるときは、どちらの性質が強いのかによって、起点を決めていく必要があります。
※人格の統合についてはここでは割愛します。別の機会にまとめてみるかもしれません。
「月」=「素の自分」とか「月のサインこそ本当のあなた」というフレーズに共鳴しやすいのは、チャート上において月の性質が強い人です。月のサインの品位の影響も多少ありますが、それよりは入っているハウスやアスペクトの状態、その他天体配置のバランスや、人格統合までのシナリオを組み立てた際の位置付けなどによっても大きく変化してきます。そして何より、次にあげる項目の絶大な影響を最も考慮しなければなりません。
3. 月の損傷によるダメージは大きくなりやすく、元の性質を全く発揮できていないケースがある(機能不全)
全ての天体の中で、月はもっとも損傷体験をしやすい天体です。この場合の損傷とは、単純に言えば心理的ダメージのことだと考えてください。
子どもの頃に、幼い心を深く傷つけられるような体験があると、月が発揮するはずだった性質を発揮できなくなってしまうということです。
損傷の原因となるのは、例えばこんなケースです。
- 各種の虐待(肉体・精神問わず)・いじめ
- 情緒的交流そのものの不足
- 情緒的多様性の不足(たとえば過干渉や過保護、また逆に保護の不足、無視、全否定等、偏った接し方の継続など。栄養の偏りによる栄養失調状態に近い)
機能不全家族との関連性
心理学には「機能不全家族」という用語があります。これは、家庭内の人間関係のアンバランスを原因とする問題のことです。この用語の詳細な解説は割愛しますが、機能不全家族の根本的な原因を端的に述べると、家族の中軸たる夫婦間の人間的信頼関係が成り立っていないことだと言えます。
ここでは日本国内に限った話としますが、機能不全を起こしている家庭は意外にも多く、これがそのまま月の性質の発育にネガティブな影響を与えます。つまり、月の性質が発揮できない人は、この国では少なくないということです。
この項目に書いたことは、実のところ私自身も該当します。
程度の強弱にもよりますが、月を損傷した体験を持つ人にとっては、「月」=「素の自分」とか「月のサインこそ本当のあなた」というフレーズには共感を覚えられず、むしろ強い嫌悪感や反感を覚えるだろうということです。ですから、「安易にこのようなフレーズを使用すべきではない」と私は考えています。
4. 自己の月の性質を感知しづらい条件がおそらく存在する
これは大変奇異な視点だろうと自分でも思いますが、あえてここに提示してみます。
私は太陽のサインが♒️水瓶座であり、また他天体やノードも存在していることから、水瓶座の要素をかなり強く持っています。さらに♒️水瓶座の支配星である天王星の影響が強いゆえか、自分の周囲にやたらと♒️水瓶座の要素を持つ人がいつの間にか増えているので、必然的にこのサインをよく観察することになります。
とくに、太陽のサインが♒️水瓶座の人に多い(というかほとんど…)のですが、自分の月が示す性質をまるで認識していないのです。
実際にセッションを通して反応を確かめても、プライベートの関係にある人に対していろいろな角度から確かめてみても、本人がピンときていないことがほとんどです。ダイレクトに「認識できない」と言われたこともありました。
水瓶座の示す性質と月の認識について
仮説1
♒️水瓶座は太陽の品位が障害(デトリメント)となるサインであり、自分の太陽の性質をまるで他人事のように客観的に捉えやすい傾向があると考えられます。そのため人生のかなり早い段階から、自分の太陽の性質を内部で認識できてしまい、またその性質を確立することを自己の精神の拠り所とする傾向が強いからではないかと思います。これは「覚醒」のサインの宿命でもあるということと、周囲からはみ出て浮いてしまうことが少なくない、水瓶座ならではの自己防衛方法の発達によるものだと考えています。
仮説2
しかし、おそらく太陽のサインが♒️水瓶座であっても、チャート内のパワーバランス的に月が強かったり、月のサインが蟹座や他の水エレメントであったり、チャート全体のエレメントバランスが水優位型だったりなどだと、仮説1はあまり当てはまらないと思います。私がこのパターンとあまり出会えず周囲にほぼいないので、まだ確かめられてはいません…。
これは思い過ごしである可能性も高いですから、ただの私の妄想として捉えていただければ良いと思います。しかし、ただの妄想にしてはこういう状態になっている人の割合が多いなと思います。また、他にも「感知しづらい条件」というものは存在するんじゃないかと思っています。
「月」をめぐる大議論
2018年末から2019年の年始にかけて、とくにTwitter上で巻き起こった占星術の議論に、「月」の根本的な象意について極めて大きな問いを投げかけられたものがありました。
この問いを投げかけたのは、日本の占星術界を牽引なさってきたおひとりである「マドモアゼル・愛」先生でした。次にその際のTweetをリンクしておきます。
マドモアゼル・愛先生による解釈の要約
とてもざっくりまとめると、マドモアゼル・愛先生は、「月」は「欠損」を示し、7歳までに獲得する自己の幻影であると解釈されています。つまり「月」が示す性質というのは、本人が一生獲得できないものだと述べたということです。ポジティブとネガティブで色分けをするならば明らかにネガティブで、月の示す自己を目指そうとすると人格を滅ぼすと警告されています。
※補足
後にマドモアゼル・愛先生は、上記の解釈を踏まえた上での「月」の隠された象意についても述べられていますので、こちらもぜひ参考にしてください。
このことに対する私の勝手な分析
メッセージ発信の目的
このご発言の本意はおそらく「人間の精神的進化を止めようとする、現在の風潮の拡大に対する警告」であったのだろうと思っています。
「月」はその年齢域が示す通り、本人の性質の中で最も幼い年代を示しています。これは、「月の性質は大人にならない」ということと深く結びついています。
成長しても子どもの頃の純真性を保ち続けることと、大人になることを否定することは違うことです。しかし、その違いはあまり正しく捉えられることはないものです。月偏重の人格解釈によって、後者の傾向を助長するようなケースが一部に散見されることも確かです。
妄想:マドモアゼル・愛先生がお持ちの可能性がある資質
Wikipediaの情報などを借りてマドモアゼル・愛先生のチャートを拝見すると、月以外のベネフィック天体は水瓶座で強いステリウムを形成していました。したがって愛先生ご自身も水瓶座の性質の強い方です。それゆえに、自己の月が示している性質との一体感を感じるという経験が、もともとなかったのかもしれません。
繰り返しますが、これは私の勝手な想像であって、ご本人にお伺いしたことではありません。
私が採用している「月」の解釈
最後に、私が現在採用している「月」の解釈について述べておきたいと思います。
自己の純真性・純真状態下の気質
インナーチャイルドという言い方をしてもいいかもしれないのですが、現在インナーチャイルドという言葉は「傷ついた子どもの心」などと解釈されることも多いようです。しかし、本来は「傷ついた」かどうかとは関係のない概念です。むしろ、あらゆる邪心にさらされ脅かされていない、善なる状態の中で解放・発揮される自己の姿だと考えています。
月の性質が理想的に発揮されていないケースについて
傷つけられることが多い環境のなかでは、次のようなケースが生まれます。
抑圧・認識の不足
心理的に大きく傷つけられると、自己防衛本能によって月の性質は抑圧され、発揮されづらくなります。自己の意識によって認識されることも少なくなっていくでしょう。
ネガティブな認識・発揮
あらゆる天体の性質というものは、ネガティブに捉えられたり、またその性質がネガティブに発揮されることも少なくありません。その中で月はことさらその傾向を強く持っていると思います。
心理的に傷つけられた結果抑圧の方向に行かなかった場合は、月の性質はネガティブに発揮されるようになります。自己認識が歪み、月の性質をコントロールできず、暴走状態になることもあります。自己の純真性の肯定と否定が並行して起こり、混乱をきたしたりもします。
あくまで自己の一要素
現在の私は、愛先生のように「月=ないもの」とは感じていません。自己の一要素として存在するものだと考えています。ただ、何年か前までの私だったら、おそらく「月=ないもの」という解釈をそのまま肯定しただろうと思います。
月は人格の器の中で、永遠に成長しない子どものままの要素です。しかし、自分の中に存在するこの子どもの存在を肯定できないと、人間は成長できず、大人にはなれません。
子どもの純真性を尊びながら育む力を持ち、互いのために邪心を備える必要性のない社会を願い、その構築のための働きを実施することは、自らの中にある純真性を失った人には絶対に成し得ないことであるからです。
「月」は「太陽」が輝いてこそ真に輝くもの
太陽系にある全ての惑星や小惑星にも同じことが言えますが、これらはみな太陽の輝きがあってこそ、その光の恩恵を受けることができます。人格の軸をなす「月」にとって、この原則はとくに重要なことです。
つまり、自己の中の月が本当に輝きその性質を発揮するためには、自己の中の太陽が示す人生の意義と意志を知り、その活動を自分の意識によって始めなければならないということです。あなたの中の「月」が本当に輝くのは、それができて以降です。
人格は「太陽」の輝きだけでは心の渇望を潤すことができず枯れ果て、「月」への執着だけでは闇しか見えずやがて魂が腐敗していきます。ですから「太陽と月、どっちが本当の自分なのか?」というのは、極めて不毛な考えなのです。どちらもあなたの中に存在するのですから。
あなたが行うべきことは自分の中にある全ての性質の意味を深く知って、その恩恵に気づき、統合を進めていくことです。

Photo by Andrew Preble on Unsplash
追記:関連記事(2020年10月8日)
この考察の続編にあたる記事を書きました。ご参考になれば幸いです。