「ミッドライフクライシス」について、占星術の視点で見つめるシリーズ記事。第2回目は、海王星とその象意のひとつである「夢」について書いていきます。
本題の前に
「ミッドライフクライシス(Midlife crisis)」は、心理学的な用語です。「ミドルエイジクライシス(Middle age crisis)」と呼ばれることもありますが、どちらも日本語に訳すと「中年期の危機」という意味になります。
用語解説・本シリーズ記事の主旨など
用語についての基本的な解説や本シリーズの主旨については、次のリンク先ページ(#1 – 人生の転機と魂の叫び)をご参照ください。
ミッドライフクライシスと海王星
海王星は、ひとことで表現するならば「理想としての夢」を象徴する天体です。

ミッドライフクライシスの時期になると、どんな人でも「N(出生図上の)海王星 と T(実際の天空の)海王星 の 90°」という配置が形成されます。この配置形成の時期、自分の魂が心の奥底で求めている「夢」について向き合わされるような出来事が起こりやすくなります。
ミッドライフクライシスに関わる海王星の配置に関するデータは、次のとおりです。
参考:海王星の公転周期・関連する配置
- 公転期間
- 約165年
- 期間中の主要アスペクト(配置のカタチ)
- N海王星 と T海王星 の 90°
- ざっくりとした意味
- 夢の強調による混乱と浄化
- 成立年齢
- 40〜42歳
配置のイメージと呼び方
サンプル:配置のイメージ
個人のホロスコープ上では、このようなイメージになります。

呼び方
これ以降、この記事では「N(出生図上の)海王星 と T(実際の天空の)海王星 の 90°」という配置を
「N海王星 と T海王星 の スクエア」
と呼ぶことにします。
どんなふうに現れる?
「N海王星 と T海王星 の スクエア」の時期は、個人の人生の中でも海王星的な感覚を感じやすい時期です。
「海王星的な感覚」とは
海王星は「夢」や「憧れ」「幻」などといった象意を持ちます。また「(境界線を)溶かす」とか「揺らす」という作用を示します。
そのため、この時期は
- 自意識や思考が曖昧で定まりにくく、もやもやしたり、ぼーっとする
- 霧がかかったような感じや、酔っているような感じ
- 想像・妄想が極端になる。過剰に理想的か、過剰に悲観的かになりやすい
- 現実感覚を失う。現実から逃避する行動をとりやすい
- 感情に異常に支配されやすくなる。とくに悲しみや失望、憐憫などが強くなる
- やたら人恋しくなり過剰に求めるか、受け入れられないことを恐れて孤立しようとする
- 苦痛や失望から解放されることを求め、一時的な快楽をもたらすものに依存しがちになる(海王星が象徴するもの:アルコール、ドラッグ、ギャンブル、性的関係、宗教など)
などの傾向が出やすくなります。

とくに、それまでの人生の中であまりそういった感覚を感じたことがないという方は、より顕著に感じる可能性があります。慣れていない感覚に支配されて混乱し、自制が効かない状態になることも少なくないでしょう。
なぜ起こる?
この配置のテーマ
「私の夢ってなんだったんだろう?」
これが、この時期のテーマのはじまりです。
そして、自分がもともと持っていたはずの夢を思い出し、それを取り戻したり、あるいは未練の情を流し去ることが、この配置のテーマです。
海王星の「真の象意」について
前のセクションで海王星の代表的な象意を少し記載しましたが、その真の象意は「天上の理想」です。

「天上の理想」とは、私たちが今暮らす地上の世界の秩序や制限の中には収まりきらないもの。
ひとりひとりに宿る魂は、そんな崇高な理想を内側に携えて、この世界にやってきているのです。
ところが、海王星はその天上の理想を地上の世界に直接降ろし、目に映る現実を理想と同一化させようとするはたらきを示します。
現実世界の秩序や制限、そしてその秩序によって振り分けられている善悪の基準は、この天体にとっては関係ないものなのです。
そこで海王星は、人の意識の中にある現実世界の認識と理想との境界線を溶かします。そしてイメージという形で現実世界へ侵食しようと試みます。
これが、いわゆる「幻想」です。

海王星の幻想は、実にその正体をとらえにくいものです。
華やか・煌びやかに見えたり、ロマンチックであったり、果てしなく膨らんでいったり、像がぶれたり、無限に増えていったり…。
共通しているのは、あなたにとって非常に魅力的で美しいこと、心地よいこと、遠く憧れのものであること、そして涙を誘うものであることでしょう。
乗り越えかた
「何故その幻想を今、見せられているのか?」を見極め、揺らぎの中で浄化に至ることが大切です。
1.幻想を見せているものが何かを知る
先の文の中で、あえて「見せられている」という表現をしたのですが、それを見せているのは他でもない自分自身(の無意識)です。
あなたが過去に見ていたことがあるか、あるいは遥か昔に意識や記憶の中からすらも締め出してしまった何らかの理想が、その根となっているはずです。それはたとえ「あとで横から入ってきた理想」であっても。あくまでも根は元々の自分の中にあります。
2.幻想の根に向き合う
海王星の関わる事項への対処では、理に適った道筋を探すことはどうやっても不可能です。そのためあまり理性的な解決策は立てられませんが、幻想の根が何であるのか、現在や今後の自分にとってどんな意味を持つものなのかを、根気よく、注意深く見つめていきましょう。
「揺れる」ことは止められない
「N海王星 と T海王星 の スクエア」の時期は、意識も心情もかなり大きく揺れるため、平常心を保つことも難しい日が多いと思います。また、集中してその答えを探そうとしても、海王星が扱う事柄は基本的に「掴めない」性質のものなので、挫折や諦めの感情を持ちやすく、失望や混乱状態に陥りやすいです。
これはもう「そういう性質のものなんだ」と知っておく以外に対処方法はありません。
むしろ「この揺れによって、知らず知らずのうちに硬直していた心が柔軟性を取り戻そうとしているのだ」と心得て、受け入れた方がいいでしょう。
水の中で溺れた時、もがいたりジタバタするよりも、まずは力を抜いて仰向けになり、背中で浮く体勢を取る方が良い…というのにちょっと似ているかもしれません。
涙が流れてしまう時は
我慢しないのがベターです。
ただ、泣くことはなかなか大きなエネルギーを使うことでもあります。ですから、あなたの生活の最低限を支えるだけのエネルギーは、できればとっておける方がいいでしょう。
けれど、それも難しい日もあるはずです。揺れながら、どうにかこうにかやっていく日々が長く続く可能性も考えておきましょう。
気をつけてほしいこと
泣くことに慣れている人もそうでない人も
「自分の心の汚れを洗い流すように泣く」ということを意識していただけるといいなぁ…と思います。
たくさんの涙が流れる時、人はそれをプールのように溜めこんで、ついその中に溺れ続けたくなってしまうものです。しかし、そこに浸り続けても、心が本当に求めていることは起こりません。
そもそも「泣く」という行為は、心にとって最も根源的なメンテナンスプロセスのためにあるからです。そのことを、次のセクションで書きます。
3.浄化する

「浄化」という表現は、スピっぽい分野では割とお馴染みの表現ですので、もしかするとしょっちゅうお聞きになっている方もいらっしゃるかもしれません。
これをもっと現実的な表現に置き換えると「(心の汚れを)洗い流す」ということを指します。
「心の汚れを洗い流す」とは
心に湧き上がったり、残っていたりするあらゆる感情や心象(=心の汚れ)を流し去ると、とてもクリアな心境に至ります。
これは何も感じないということとも違うのですが…いかなる感情も残らないため、言葉で正確に表現するのはなかなか難しいですね。しかし「霧が晴れたような気持ち・感覚」とか「ニュートラルな状態」と言えば、かなり近いかと思います。
この「心の汚れを洗い流す」ための最も根源的なプロセスを担うのが「泣く」という心理機能です。このプロセスは、心のキャパシティの限界を超えて感情がオーバーフローした時、最後のメンテナンスプロセスとして発動し、心をリセット・リフレッシュします。
このプロセスが発動した時、まだ二次感情(たとえば怒りなど)が混ざっているうちは、不完全な結果に終わります。
一次感情である「純粋な悲しみ」「純粋なよろこび」「純粋な感謝」のいずれかに到達した瞬間、心の汚れは文字通り涙によって洗い流されます。
これが、涙による「浄化」です。
もう一つ大切なのが「全て残さず流し切る」ということです。身も蓋もない表現になりますが、感情とは心そのものではなく、心の反応であり「排泄物・分泌物」に等しいものであるからです。
感情とは、いわば暑い時にかく汗のような位置付けのものなのです。
泣くこと以外でも浄化は起こる
もちろん「泣かなければ浄化にならない」というわけではありません。その人の、その時の人生のいろいろな状況や条件によって、他の方法を自然に選択することは大いにあるでしょう。
4.結晶を取り出す

自分の心の根にたどり着き、浄化のプロセスが達成された場合、おそらくあなたの心の中には「これが私の夢(=理想)なのだ」と感じられる透明な結晶が現れるでしょう。
際限なく膨れ上がっていたハリボテのようなものや、いくつも増殖していた幻覚などは全て消え去り、残ったその結晶だけが、あなたにとっての本物の夢・理想(=ビジョン)です。
その結晶が何であるのかは、誰にもわかりません。
あなたが過去からずっと持っていたものなのか、人生の軌跡の中で生まれた新しいものなのか、全く新しい未来の姿なのか…
確かなことは、それはあなたの中にだけ存在するものであり、他の人には見えません。そして、その結晶を取り出してどうするかは、全てあなたの手に委ねられている ということです。
あなたの中に眠っている夢とは何でしょうか?
そして、その夢の結晶を取り出した時、あなたはどうしたいですか?
あなたにとっての「N海王星 と T海王星 の スクエア」とは何か?
さて、あなたにとっての「N海王星 と T海王星 の スクエア」とは何でしょうか?
それを理解するには、まずはやはり出生図(N)を解析する必要があります。
ここではあなたの出生図(N)内の海王星がどのハウスに入っているのか?によって得られる手がかりをご紹介してみます。
探し方
あなたの出生図(N)の中において、海王星の記号(♆)が何番目の領域に入っているかを確認します。

私の出生図の場合、海王星の記号(♆)は「9」という番号がついた領域に入っています。
これは、私の出生図(N)の海王星が「第9ハウス」に入っていることを意味しています。
「N海王星」が示すことの例(ハウス別)
ここでお示しできるのはあくまで代表的・原義的なものであり、ひとりひとりの出生図を詳細に解析するともっと深い意味が表れることにご注意ください。
N海王星のハウス | 示すことの例 |
---|---|
第1ハウス | 「理想の自己像」 美しく高潔な自分であること 俗世的な価値観や肉体の影響を受けない純粋な姿勢 |
第2ハウス | 「理想の価値」 高潔な精神に価値を見出し、示すこと 夢のようなビジョンを現実世界に表す才能 |
第3ハウス | 「理想の知性」 非言語的な知的要素を言語として表現すること 知性そのものを広大無辺に拡大する |
第4ハウス | 「理想の家」 血縁や伝統より精神で結合した高潔な絆を築くこと 純粋な心を寄せ合い互いを守れる環境 |
第5ハウス | 「理想の創造」 無限の創造欲求 高潔な精神に基づく芸術活動への邁進 |
第6ハウス | 「理想の貢献」 他者の精神を癒やし幸福をもたらせる仕事 物質的な報酬にとらわれない貢献 |
第7ハウス | 「理想の人間関係」 精神で結びついた関係性 契約や取引に基づかない人間関係 |
第8ハウス | 「理想の共有」 遺産・継承物の精神的価値の重視 同一の夢や赦しを共有する相手 |
第9ハウス | 「崇高な思想」 高尚な学問・思想の無限の追求 未知の探究への永遠の憧れ |
第10ハウス | 「理想の社会」 現実的な実績や評価によらない崇高な精神による 社会貢献 夢を社会に普及する仕事 |
第11ハウス | 「崇高な願望」 人類全体の在り方に対してより崇高な理想を抱く 気高い理想を共有する仲間との自由な活動 |
第12ハウス | 「崇高な信仰」 永遠に穢れることのない精神を内面に持ち、意識の全てに反映すること 人類全体が無意識に持つ理想の純粋さを信じること |
「T海王星」が示すきっかけの例(ハウス別)
ここでは、N海王星に対する問いかけは何をきっかけにもたらされるのか?について、経過図(T)の海王星が示すことの例を記載していきます。
「T海王星のスクエア」が正確に成立する時、あなたの出生図(N)のどのハウスに「T海王星」がいるのか?を確認するようにしてください。

この例の場合「N海王星」は第9ハウスにあります。
N海王星に対して「T海王星」の正確なスクエアの形成が起こった時に「T海王星」がいるのは、出生図(N)の第12ハウスの領域だということになります。
ここでお示しできるのはあくまで代表的・原義的なものであり、ひとりひとりの出生図を詳細に解析するともっと深い意味が表れることにご注意ください。
T海王星のハウス | きっかけの例 |
---|---|
第1ハウス | 理想の自己像の介入 / 自己像の純化の必要性 |
第2ハウス | 理想の価値観の介入 / 所有物の純化の必要性 |
第3ハウス | 理想の交流観の介入 / 言語表現の理想化の必要性 |
第4ハウス | 理想の家庭像・家族像の介入 / 環境の純化の必要性 |
第5ハウス | 理想の創造の介入 / 創造性の発揮の必要性 |
第6ハウス | 理想の貢献観の介入 / 貢献方法の純化の必要性 |
第7ハウス | 理想の人間関係観の介入 / 関係性の純化の必要性 |
第8ハウス | 理想の遺産・継承像の介入 / 心理共有の純化の必要性 |
第9ハウス | 崇高な思想の介入 / 思想の純化の必要性 |
第10ハウス | 理想の社会人像の介入 / 名誉や実績の純化の必要性 |
第11ハウス | 崇高な願望の介入 / 自己の願望を人類全体レベルに合わせていく必要性 |
第12ハウス | 崇高な信仰心の介入 / 集合無意識に対して向ける意識の純化の必要性 |
より深く知るには
ここでは例を挙げることはできますが、実際お一人おひとりにとってどのようなものになるかは、チャートの全てを解析する必要があります。
より深くくわしく知りたいという方は、セッションをご検討ください。
「ミッドライフクライシス」を、乗り越えよう

人それぞれに、中年期に迎える人生展開は異なっており、そこに秘められている意味もまたひとりひとり違います。
けれど一番大切なことは、ミッドライフクライシスは「乗り越えられる」ものだということです。
あなたにとっての「ミッドライフクライシス」の意味とはなんでしょうか?
それを乗り越える方法とは?
そして、乗り越えた先にあるものとは何でしょうか?

あなただけの「ミッドライフクライシス」の意味を知り、乗り越えるための方法を見つけ、その先へ進んでいきましょう。
本シリーズの次回の記事では、ミッドライフクライシスと冥王星について書きたいと思います。